改正民法における消滅時効について
2018年02月01日
昨年5月に改正された民法が、平成32年4月1日から施行されることとなりました。改正内容は、①債権の時効期間の変更、②法定利率の柔軟化、③約款の規定が新設、④個人保証要件の厳格化、など多岐に渡りますが、本稿では、この中でも特に人事・労務に密接に係わってくる消滅時効について採り上げます。
1.時効期間と起算点に関する見直し
現状は、下図のように消滅時効を原則10年としながら例外規定があり、どの期間が適用されるのか分かりにくくなっています。改正法では、職業別の短期消滅時効を全て廃止し、時効は『権利を行使することができる時から10年』『権利を行使することができることを知った時から5年』のいずれか早い方の経過によって完成する、というシンプルなルールに統一されます。
(改正法)
起算点 時効期間
原則 知った時から 5年
権利を行使することができる時から 10年
法務省『民法(債権関係)の改正に関する説明資料』を一部加工
2.賃金債権の時効
賃金債権について、民法では「月またはこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権は、1年間行使しないときは消滅する」と規定されています。しかし、労働基準法では「賃金、災害補償その他の請求権は2年間、退職手当の請求権は5年間」という特例が定められています。つまり、民法の「1年間」という原則を、特別法である労働基準法が労働者保護などの観点から「2年間」まで延長しているのです。この点について、改正民法施行後は、民法原則(5年間)より労働基準法の特例(2年間)の方が短いという逆転現象が生じてしまいます。
仮に、賃金の請求権が5年間に延長されたとすると、それに伴い経営リスクは高まります。残業代等の未払いについて、経営者が知っていた場合はもとより、計算方法の誤りなどによって知らないうちに債務が5年分膨れ上がってしまい、労働者から請求されたときに始めて気づく・・・ということも有り得ます。
賃金債権の時効について、厚生労働省は学識者や実務経験者などを交えた検討会を開催し、「今夏をめどに賃金等請求権の消滅時効期間の在り方等を取り纏める」としています。
3.まずは現存リスクへの対応から
「2年間」「5年間」等の議論はありますが、現行の「2年間」の賃金債権で見た場合でも、今なお未払い賃金に関するトラブルは絶えません。ぜひこの機会に、就業規則や賃金規定、雇用契約書の見直し、管理監督者等の労働実態の確実な把握、労働時間の適正化などにより、潜在化しているかもしれないリスクを洗い出し、早期に対応されることをお勧めいたします。
※本内容は2018年1月10日時点での内容です