賃金不払残業の監督指導に見る超過労働リスク

2019年10月01日

2019年10月、厚生労働省は、『令和元年版過労死等防止対策白書』を公表しました。平成26年の過労死等防止対策推進法施行から5年。過労死等の現況はどのようになっているのかをご案内いたします。

1.過労死等防止対策白書
過労死等防止対策白書とは、過労死等防止対策推進法に基づき、我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況等を纏めたもので、国会に毎年報告される年次報告書です。4回目となる今回の白書では、以下の点がポイントとして挙げられています。

(1)長時間労働の実態があると指摘のある建設業、メディア業界に関する労災認定事案の分析など、企業における過労死等防止対策の推進に参考となる調査研究結果を報告
(2)長時間労働の削減やメンタルヘルス対策、国民に対する啓発、民間団体の活動に対する支援など、昨年度の取組を中心とした労働行政機関などの施策の取組状況について詳細に報告
(3)企業や民間団体などにおけるメンタルヘルス対策や勤務間インターバル制度の導入をはじめとする過労死等防止対策のための取組事例をコラムとして多く紹介

2.長時間労働の指摘がある2業界への分析
前述の建設業・メディア業界の分析は、平成22年1月から平成27年3月までに労災支給決定(認定)された事案を対象に、当該業種の事案を抽出して行われています。
まず、脳血管疾患・心臓疾患労災認定から見ていきます。建設業では、発症時の年齢階層は50歳代が最も多く、以下40歳代、60歳代と続いています。発症要因としては、長期間の過重業務が最も多く、労働時間以外では、拘束時間の長い勤務と精神的緊張を伴う業務が多くなっています。一方、メディア業界は、発症時の年齢階層で40歳代の事案が最も多く、次いで30歳代でした。労災認定要因は“全て”が長期間の過重業務でした。
続いて、精神障害事案を見てみます。建設業の技能労働者等では、その発症に関与したと考えられる業務によるストレス要因(以下、「ストレス要因」)は、半数が墜落・転落や重機への巻き込まれ等の労働災害の被害を要因としています。また、現場監督、技術者では自殺事案が多く、ストレス要因は、長時間労働や業務量等の変化が多くなっています。一方、メディア業界では20~30歳代の若い世代が多く、特に自殺事案では全て20歳代でした。ストレス要因は、やはり長時間労働に関連するものが多く、そのほかに、仕事の量・質や対人関係に関するものが多くなりました。
このように、両業界共に長時間労働が原因となっていますが、なぜ長時間労働が引き起こされるのでしょうか。企業調査結果を見てみると、建設業の技術者の所定外労働が生じる理由は、「業務量が多いため」(56.7%)が最も多く、次いで「人員が不足しているため」(53.7%)、「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため(予期せぬ設計変更等)」(51.1%)でした。技能労働者では、「人員が不足しているため」(49.7%)が最も多く、次いで「仕事の繁閑の差が大きいため」(46.5%)、「業務量が多いため」(45.5%)でした
また、メディア業界では、制作職の所定外労働が生じる理由は、「仕事の繁閑の差が大きいため」(49.6%)が最も多く、次いで「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」(48.1%)、「業務量が多いため」(47.7%)となっており、業種別にみると、広告では、「顧客からの不規則な要望に対応する必要があるため」(65.5%)が最も多く、次いで出版の「仕事の繁閑の差が大きいため」(56.1%)、新聞の「仕事の繁閑の差が大きいため」(55.2%)でした。

3.労働時間の把握と改善について
このように長時間労働の原因については、業界で差異が出ることのみならず、業種や従事する業務によっても原因が変わってくるため、個別の原因調査と対策が必要です。そこで、まずは働く時間の正確な把握や業務にかかる時間の分析を行っていきます。「スキルマップ」「働き方計画表」「業務の棚卸し、平準化」「管理職の教育」「ムリ、ムダ、ムラの削減」などが有効な手法となりますので、効果的な手法を検討・採用しながら、自社により最適な形で見直していきましょう。

4.さいごに
2020年4月からは、中小企業に猶予されていた時間外労働上限規制も、施行となります。法律に従うのはもちろんですが、従業員の健康、ひいては人生を守るためにも、是非とも、積極的な労働時間削減を行ってください

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