副業・兼業の“これから”と課題について
2018年04月01日
去る1月、厚生労働省より『副業・兼業の促進に関するガイドライン』が公表されました。ガイドラインでは、副業・兼業について企業や労働者が留意すべき事項がまとめられています。現在は多くの企業が禁止している副業・兼業ですが、現状や今後の課題について概説してまいります。
1.副業・兼業の現状
副業・兼業制度については、右図のとおり認めていない企業がほとんどです。副業・兼業自体への法的な規制はありませんが、平成29年12月時点までの厚生労働省の『モデル就業規則』が副業などを禁止していたことや、大半の企業が副業・兼業を認めていないということが、大きく影響していたと考えられます。
しかし、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であるため、就業規則で禁止していたとしても、それが有効と認められるとは限りません。労働時間以外の時間を企業が制限できるのは、“労務提供上の支障となる場合”“企業秘密が漏えいする場合”“企業の名誉・信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合”“競業により企業の利益を害する場合”などであることが、裁判例などから考えられます。
2.副業・兼業のこれから
ガイドラインと同時に公表された新モデル就業規則は、「労働者は、勤務時間外において、他の企業等の業務に従事することができる」とし、副業などを原則容認しました。ガイドラインも「裁判例を踏まえれば、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当である」としています。
右図の様に副業を希望する者が増加している昨今においては、今まで副業を容認していなかった企業も、今後は考えを改めざるを得なくなるかもしれません。
3.副業・兼業の課題
副業・兼業は、労働者の所得が増加する他、労働者が主体的に社外でキャリアを形成することで、企業にとっても社内では得られない知識が得られるといったメリットがあります。一方で“本業への支障”や“労働者の健康配慮”、“競業・利益相反、情報漏えい”といったリスクも、十分に認識し、対策しなければなりません。厚省労働省のモデル就業規則でも、以下のいずれかに該当する場合は、副業・兼業を禁止または制限できると定めています。
①労務提供上の支障がある場合
②企業秘密が漏えいする場合
③企業の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④競業により、企業の利益を害する場合
この他にも、各企業の事情に合わせた独自の運用ルールを定めることも検討すべきでしょう。中小企業庁の『兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集』に掲載されている企業事例では、“本人のスキルアップに役立つこと”“副業が公序良俗に反しないこと”“個人事業ではなく、他社の被用者となる際は届出ること”などが副業・兼業を認める条件として紹介されています。ただし、あまりに抑止的な条件を設けることは、本来は自由であるべき労働時間以外の労働者の自由を不当に制限することにも繋がりかねません。企業と労働者とがお互いの権利を擁護し、尊重し合えるような制度づくりを目指すことが望まれます。
4.さいごに
ここまで、主に人事・労務の観点から、副業・兼業について就業ルールの面から注意点を述べてきました。しかし、情報漏えい・秘密情報の保護という点では、人事・労務面での対策だけでは不十分でしょう。経済産業省の『秘密情報の保護ハンドブック』では、秘密情報を守るため、以下の対策を挙げています。
①秘密情報に近寄りにくくするための対策
②秘密情報の持ち出しを困難にするための対策
③漏えいがみつかりやすい環境づくりのための対策
④秘密情報だと思わなかった!という事態を招かないための対策
⑤社員のやる気を高め、秘密情報を持ち出そうという考えを起こさせないための対策
いずれも人事・労務部門だけでは取組めませんし、また、人事・労務部門の関与が無ければ取り組めない対策でもあります。副業・兼業を認める場合においては、社内の秘密を守るための対策にはいっそうの配慮が必要になってきます。