新しい『高齢社会対策大綱』について

2018年03月01日

 政府は2月16日、高齢社会対策の中長期的な指針となる『高齢社会対策大綱』を閣議決定しました。旧大綱においては、「人生90年時代」を前提としていましたが、「人生100年時代」を前提とした新大綱ではどのように変わっているのかを見てまいります。

基本的な考え方
高齢社会対策を推進する基本的な考え方は、以下のように変わっています。

【旧大綱】
①「高齢者」の捉え方の意識改革
②老後の安心を確保するための社会保障制度の確立
③高齢者の意欲と能力の活用
④地域力の強化と安定的な地域社会の実現
⑤安全・安心な生活環境の実現
⑥若年期からの「人生90年時代」への備えと世代循環の実現

【新大綱】
①全ての年代の人々が希望に応じて意欲・能力をいかして活躍できるエイジレス社会を目指す
②地域における生活基盤を整備し、人生のどの段階でも高齢期の暮らしを具体的に描ける地域コミュニティを作る
③Society5.0が可能にする新しい高齢社会対策を志向する

旧大綱では、「“支えが必要な人”という高齢者像の固定観念を変え、意欲と能力のある65歳以上の者には支える側に回ってもらうよう、国民の意識改革を図る」として高齢者に焦点を当てていましたが、新大綱では「高齢社会化は、高齢者のみの問題として捉えるべきではない」とした上で、むしろ「全世代による全世代に適した持続可能なエイジレス社会の構築を進める」としています。
そのほか、地域コミュニティについては踏襲しながら、新たにサイバー空間の積極的な利活用への言及を加え、「高齢者が自らの希望に応じて十分に能力が発揮できるよう、その支障となる問題(身体・認知能力、各種仕組み等)に対し、新技術が新たな視点で解決策をもたらす可能性に留意し」、そのためにも「産業界の参画しやすいよう、環境づくりに配意する」としています。

基本的施策とトピックス
施策に関する中期指針は、『就業・所得』『健康・福祉』『学習・社会参加』『生活環境』『研究開発・国際社会への貢献等』『全ての世代の活躍』の6部門について定められています。
このうち『就業・所得』分野では、「年齢にかかわりなく希望に応じて働き続けることができるよう雇用・就業環境の整備を図る」とともに、「社会保障制度についても、…(中略)…柔軟な制度となるよう必要に応じて見直しを図る」と謳っています。前者については、再就職や起業の支援、多様な形態による就業機会・勤務形態の確保が検討されています。また、後者については、公的年金の受取り開始年齢について、現在の制度では65歳を基準に60~70歳の間で選ぶことができるのに対し、70歳を超えてからでも開始できる制度が検討されています。

『健康・福祉』分野においては、「家族の介護を行う現役世代にとっても働きやすい社会づくりのため、介護の受け皿整備や介護人材の処遇改善等の“介護離職ゼロ”に向けた取組を推進する」旨が謳われました。介護事業者等への支援が予想されるほか、介護と仕事の両立支援に向け、一般の事業主に何らかの対策が要請される部分も出てくると予想されます。

『学習・社会参加』分野では、「高齢者が就業の場や地域社会において活躍できるよう高齢期の学びを支援する」としています。旧大綱と比して特徴的な点としては、「生涯を通じて社会保障に関する教育等を進める」としたことや、「ICTリテラシーの向上」が謳われたこと等が挙げられます。


さいごに

以前の高齢者像とは、基本的には「支えが必要な人」であり、定年後再雇用もシニア人材の活用も、どちらかといえば「例外」として扱われてきた向きがあります。
しかし、傘寿超えのアプリプログラマーが活躍し、平均年齢70歳の農業ベンチャーが躍進するなどの実例もあり、これからの高齢化社会対策は、個々の高齢者の特性や可能性が重要視されるように思われます。所得や健康状態、要介護家族の有無などといった生活環境から、ICTリテラシーの高低や就労意欲といった労働面でのポテンシャルまで、全く同じ背景を持った高齢者はいません。
企業においては、定年や継続雇用についての法律を守るといった視点からではなく、「どのように能力を発揮してもらうか」という観点からシニア人材の活用について考えるときが来ていると言えるでしょう。

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