¥年金の運用事情について¥

2017年10月02日

 厚生労働省は8月10日、平成28年度の年金特別会計の収支決算を発表しました。厚生年金は時価ベースで10兆5031億円の黒字となり、厚生年金と国民年金を合わせた積立金残高の合計は、市場での運用を始めた01年以降最高の153兆4130億円となっています。本稿では、私たちが負担する年金保険料がどのような運用をされ、また、企業や労働者にどのような影響を与えるのかについて概説してまいります。

公的年金制度の財政方式

日本の公的年金は、基本的にその年に支払われた保険料を当該年の給付原資としています(賦課方式)。そのため、少子高齢化が進行すると、保険料負担増と給付水準低下が避けられなくなります。上記のような積立金は、現役世代の人数が多かった時代に積立てられ、将来の年金給付原資を確保するために運用されています。そして、年金積立金の運用は、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という組織が、厚生労働大臣から寄託を受けて管理・運用しています。

(GPIFのHPから抜粋)

運用損益の波と考えられる影響

昨年度の年金積立金の運用は約10兆円の黒字でしたが、一昨年は約5.3兆円の赤字を計上し、年金制度の信用問題が当時のニュース等でも大きく取り上げられました。
年金積立金は右図(GPIFのHPから抜粋)のとおり半分以上が株式や外国債券で運用されており、市場変動に大きく影響されます。ただ、市場での運用を開始して以来の16年間では約53兆円の累積収益額を計上しているうえ、年金積立金の運用は長期的な観点から行うものであり、短期的な評価損は年金財政上の問題は全く生じさせない、というのが政府の見解となっています。たしかに、年金積立金を使い切るまでに、賦課方式が成り立つバランスが実現できれば良いのですから、毎年の運用損益だけを見て一喜一憂することは、合理的ではないように思われます。
ただ、これからの運用成績によっては、計画よりも早く積立金が枯渇し、給付原資を、会社においては保険料負担増、労働者においては現役時の保険負担料増や給付減、支給要件引上げといった手段で確保せざる得ない事態を招くかもしれません。

おわりに
少子高齢化が進展する中、テレビやインターネット等では「年金制度は既に破綻している」との論説があります。これは短絡的な考えであるように思われますが、支給開始年齢が年々引き上げられていくなどといったこともあり、国の年金に依存し過ぎるのはリスクとして認識しておく必要があります。老後の生活保障を国に頼りきりにするのではなく、個人や会社が自主的に将来への備えをしていく時代が来ていると捉えることもできるでしょう。
それぞれの労働者が自身の老後の資産設計をすることはもちろん重要ですが、会社にとっても、労働者の退職後の生活について検討することは、意義があります。人手不足が深刻化している現在において、労働者の福利厚生を手厚くすることは、求人においても有利になり、今いる労働者にとっても長期勤続のためのインセンティブになります。また、50代の労働者を対象にライフプランセミナーや相談会を実施し、老後の資産形成等についての啓発を行う大手企業が多くありますが、まだ実施されていない企業においては実施を、既に実施している企業においては30代~40代の労働者向けに早い段階から実施していくことも福利厚生の一環として有益かもしれません

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