災害とBCP(事業継続計画)について

2017年11月01日

日本では、台風や地震などの自然災害が多発しており、また本年8月以降、弾道ミサイルの日本上空通過など、物々しい出来事が相次ぎました。このような災害に対して、起こってから対処するのではなく、事前に準備をしておくことが、後手を踏むことのない災害対策として重要になります。今回は「まさか」の事態に対して、企業と従業員はどのように災害に備えるべきか、人事労務の観点からBCP(事業継続計画)を取り上げます。
※BCPとは、企業が災害や事故で重大な被害を受けた際、重要な業務を継続するため、予め必要な事項について定める計画を指します。本来であれば、企業の重要な業務に必要な資源(人・物・金・情報等)を総合的に考慮するものですが、本稿では「人」の部分にフォーカスを当ててお伝えいたします。

必要な資源としての“人”の確保
被災後に事業を継続していくには、当然、従業員の労務提供が必要です。しかし、使用者である企業は使用する従業員等に対して安全配慮義務を負っているため、労務提供を求めるのに際して、危険の予測や、さらなる被害を防止するための対策を行わなければなりません。
“人”の確保について、例えば災害時でも放送を停止できないNHKでは、東京と大阪のそれぞれの拠点で人材を備えています。しかし、複数拠点やバックアップとなる人員を持たない一般的な中小企業では、上記のような対策は困難です。
中小企業でも実施できる現実的な方法として、中小企業庁『中小企業BCP(事業継続計画)ガイド』では、以下のような確認事項を例示し、有事の際でも“人”を確保できるよう、事前の準備を促しています。

①従業員は駆け付けてくれるか
②従業員の家族は手伝ってくれることができるか
③臨時要員や応援要員(OB活用など)の確保は可能か
④安否確認の方法(従業員、家族、協力会社)は確立しているか
⑤徒歩で出社可能な従業員はどの程度いるか

いずれの事項についても、従業員の理解と協力が無ければ成り立ちません。災害時に、企業は従業員にどのように行動して欲しいか、十分に話し合い合意を形成することが重要です。また、②③の検討にあたっては、企業組織外の方に対して、どのように働きかけるのか、細心の注意を払う必要があるでしょう。

従業員等に対する安全配慮
従業員等の安全確保についても、前もって検討することが大切です。前述の『中小企業BCP(事業継続計画)ガイド』では、事業継続能力の診断として、人的資源については以下の設問を置いています。

地震や水害、火災などの緊急時に従業員の安全や健康を確保するための防災計画を作成していますか?
緊急事態が勤務時間中或いは夜間・休日に起こった場合、あなたは従業員と連絡を取り合うことができますか?
定期的に避難訓練を実施していますか?
応急救護法や心肺蘇生法の訓練を受けた従業員がいますか?

業務命令権の限界と、事前協議の必要性
企業は業務の遂行全般について、その命令が合理的で就業規則に基づくものである限り、従業員に対し広範な業務命令権を有しています。ですから、災害等の非常事態に対応するため、通常の業務や労働時間とは異なる就業を命じたとしても、ただちに業務命令が無効になるわけではありません。
しかし、合理的な範囲を超えるような場合は、その限りではありません。 “海底線布設船たるA船乗組員のほんらい予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たるA船乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難いところである”として、業務命令権の限界についての判例もあります(最三小判昭43・12・24)。
上記の判例は、軍事的緊張下における海底線の修理に関する業務命令という、かなり極端な事例ではあります。しかし、災害時においては、企業の業務命令権を適切に行使することが難しいケースも存在することを認識していることが大切です。

おわりに
以上に示した通り、人員を確保して安全に配慮しながら、業務命令を適切に行使していくためには、方針を明文化し、災害対策訓練を定期的に繰り返すなどしながら、会社に浸透させていくことが大切になります。災害の可能性は至る所に潜んでおり、そのすべてに適切に対応できるBCPを考えようとすると、一仕事になってしまいます。まずは、従業員と話し合いながら、シンプルに構築し、見直しの積み重ねによって、最適化を図っていくと良いかもしれません。

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