新型コロナウイルス感染症 「ワクチン接種」に期待される企業の働き
2021年06月07日
4月12日から一部の自治体で、高齢者を対象とした新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まっています。実施する市区町村や接種する人数はまだ限られていますが、5月以降には多くの高齢者への接種が可能となる見通しとのことです。また、その後は、高齢者以外で基礎疾患のある方、高齢者施設等で働いている方、それ以外の方、と順次拡大されていくこととなります。
ワクチン接種の現況
首相官邸のホームページによると、5月6日時点でワクチン接種は約419万回行われており、内訳としては、医療従事者などへの接種が約395万回、65歳以上の高齢者等への接種が約24万回となっています。
接種を受ける費用は無料で、事前に市区町村から「接種券」と「新型コロナワクチン接種のお知らせ」が届き、電話やインターネットで予約したあとに、指定の会場でワクチンを接種するという流れです。
ワクチン休暇導入の呼びかけ
加藤内閣官房長官は3月に行われた記者会見の中で、ワクチン接種時に取得できる休暇制度の導入を検討する考えを示しました。加えて河野規制改革担当大臣も自身のインターネット番組で、従業員が接種の際に休暇を取得できる環境整備を経済界に求める考えを示しており、「ワクチン休暇」の普及に対する政府の前向きな姿勢がうかがえます。
ワクチン休暇を設ける呼びかけには、「接種が休日に集中することを防ぐ」という目的があります。密を避けた接種で、感染拡大の防止と、安心安全なワクチン提供環境の確保が期待されます。また、人によってはワクチンを接種することで副反応が出る事象が確認されています。そのような事象に対する心身両面の不安や負担の軽減を図ることも、ワクチン休暇を推進することの狙いとされています。
ワクチン接種に関連した労務管理
① ワクチン休暇などを導入する際の留意点
ワクチン接種に向けた手続きは会社を通さずに行われますので、休暇制度を導入する場合には、従業員の申出を前提とした制度設計になるのが一般的でしょう。実際に接種するまでの流れをイメージしながら、申出・承認のタイミングや期限、賃金発生の有無、取得の単位などを積極的に議論し、平等性・公平性の高い制度を確立していく必要があります。
加えて、個別的対応に委ねられるワクチン接種が、職場におけるいじめや嫌がらせの問題に発展することも懸念されます。職場全体で接種を強要する雰囲気を作らない、また、接種していない人に差別的な取り扱いが行われないよう、会社の方針をトップダウンで発出し、いじめなどの問題への発展防止に併せて取り組みましょう。
② 接種命令の可否
ワクチン接種は人によって危険性が伴うことから、国としても接種を強制するとはしていません。しっかりとした情報提供のうえで、本人の同意がある場合に限り接種を行うとしています。
今後、社会情勢の変化によっては、事業活動の継続においてワクチン接種の必要性が非常に高まることも予想されますが、健康被害が生じた場合のリスクを勘案すると、現時点では強制力の高い接種命令は厳しい印象です。
③ 副反応が生じた場合の労災請求
厚生労働省のQ&Aによると、ワクチン接種については、通常、従業員の自由意思に基づくものであることから、業務として行われるものとは認められず、これを受けることによって健康被害が生じたとしても、「労災保険給付の対象とはならない」とされています。
他方、医療従事者などに係るワクチン接種については、医療機関などの事業主の事業目的の達成に資するものであるため、業務遂行のために必要な行為として、労災保険給付の対象になるとしています。
最後に
著名な大企業を始めとして、中小企業においても、今回のワクチン接種を「一人ひとりの健康管理の次元を超えた社会全体の課題である」と捉え、ワクチン休暇制度や奨励金の支給制度を導入したという報道もあります。
社会構成を踏まえれば、このような企業の取り組みが与える影響は大きいと考えられ、各閣僚の呼びかけからもその期待値・重要性が伺えます。それぞれの企業様におかれましては、求められる社会的責任と役割を深く自重し、自社に適したワクチン接種に関する施策を検討していただければと思います。