新型コロナウイルスの影響による『休業手当』の支払いについて
2020年04月01日
本年2月以降、新型コロナウイルス感染症が各地で猛威を振るっています。企業の経営者様、ご担当者様は、この危機的状況を乗り越えるため、様々な対策・対応に奔走されていることかと思います。
このような状況下において、労務管理上の課題として挙がるのが「労働者に感染の疑いが生じた場合の、休業等の対応」です。
特に、労働者を休業させた場合の『休業手当』については、個別の事案ごとに諸般の事情を総合的に勘案する必要があり、一概に判断するのは困難です。
今回は、休業手当の支払いにおける一定の判断基準について、労働基準法コンメンタール(逐条解説書)や厚生労働省のQ&Aを基に概説いたします。
1.新型コロナウイルスに罹患した場合
この場合、使用者は当然に労働者を休ませることになるかと思いますが、ここで問題なるのが、労働基準法に定める休業手当を支払うべきか否かです。
<労働基準法第26条 (休業手当)>
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。
上記の通り、労働基準法では「使用者の責めに帰すべき事由による休業」の場合は、休業手当を支払わなければならないとされていますので、今回の新型コロナウイルスの感染が「使用者の責めに帰すべき事由」に該当しているかどうかを考えなくてはなりません。
「使用者の責めに帰すべき事由」とは何を指すのか、労働基準法コンメンタールでは以下の通り示されています。
<使用者の責めに帰すべき事由>
「使用者の責めに帰すべき事由」とは、第一に使用者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものよりも広く、第二に不可抗力によるものは、含まれない。
すなわち、新型コロナウイルスの感染が不可抗力による場合には、「使用者の責めに帰すべき事由」に該当しないことになります。
では、「不可抗力によるもの」とは何なのか、同様に労働基準法コンメンタールでは、以下の通り示されています。
<不可抗力>
第一に、その原因が事業の外部より発生した事故であること、第二に、事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお避けることのできない事故であることの2要件を備えたものでなければならないと解する。
ゆえに、コロナウイルス感染に関する使用者の事前の予防や対策が不十分、または不適切と判断された場合には、コロナウイルスの感染が「不可抗力によるもの」とは言えないため、休業手当の支払いを要する可能性があります。
言い換えれば、可能な範囲で事前の予防や対策を徹底したにもかかわらず、罹患したのであれば、それは「不可抗力による」感染と言えますので、休業手当の支払いは要しません。その場合の所得保障は、私傷病扱いとし、健康保険から傷病手当金の支給を受けることが出来ます。
2.感染が疑われる場合
この場合は、休業を命じないと他の労働者への感染リスクがありますが、「帰国者・接触者相談センター」での相談結果を踏まえても、職務の継続が可能である労働者について、使用者が自主的に判断し休業を命じた場合には、その理由が感染防止という正当な理由であっても、「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当する可能性が高いです(厚生労働省Q&A)。例えば、発熱等の症状があることのみをもって、一律に労働者を休ませる措置を講じた場合がそれに当たります。
一方、労働者への感染が確定していない段階で、発熱等の症状を理由に労働者が自主的に休む場合は、通常の病欠と同様に取り扱うこととなります。この場合は、会社が命じた休業ではないため、休業手当の支払は不要と判断されます。
今回は休業手当の支払いについてご紹介しましたが、現状は、企業としていかに事業継続の対策を講じていくかが最重要項目となっています。
政府は企業の経済活動を少しでも支援するため、テレワーク導入に関する助成金や労働者の休業補償など、様々な施策を発表しています。
新型コロナウイルス感染症に対し、なにか対策をご検討されている場合は、助成金等を活用したご支援ができる場合もありますので、弊所までお気軽にご相談ください。