パワハラ防止指針が告示されました
2020年02月01日
かねてより議論が重ねられていた『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』が、本年1月15日に告示されました。
パワハラ防止指針ともいわれる同指針ですが、具体的にはどのようなことが書かれているのでしょうか。『パワハラ防止法(労働施策総合推進法の改正法)』の施行日(大企業は本年6月、中小企業は2022年4月)を見据え、指針の内容をみていきましょう。
1.指針の作成経緯
パワハラ防止法の施行以降、事業主には、職場のパワハラに対応するため、雇用管理上必要な措置を講じる義務が課せられることになります。この措置の内容については、厚生労働大臣が指針を定めることが同法に規定されており、今回の指針はそれに対応するものです。
2.指針の概要
まず職場のパワハラについて、指針では、以下のとおり定義を置いています。
“職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすものをいう。
なお、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない。”
その上で、個別事案の該当性を判断するに当たっては、様々な要素(当該言動の目的、当該言動を受けた労働者の問題行動の有無等)を総合的に考慮することが適当であり、労働者の行動が問題となる場合は、それに対する指導の態様等の相対的な関係性が重要な要素となることが示されています。
3.パワハラ該当の事例
今回告示された指針では、『パワハラに該当する、または該当しないと考えられる事例』も記載されていますので、いくつか抜粋してご紹介します。
精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
該当すると考えられる例
・人格を否定するような言動を行うこと。相手の 性的指向・性自認に
関する侮辱的な言動を行うことを含む。 該当しないと考えられる例
・遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが
改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすること。
過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
該当すると考えられる例
・長期間にわたる、肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での勤務に
直接関係のない作業を命ずること。 該当しないと考えられる例
・労働者を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を
任せること。
過小な要求
(業務上の合理性なく能力や経験 とかけ離れた程度の低い仕事を
命じることや 仕事を与えないこと)
該当すると考えられる例
・気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないこと。 該当しないと考えられる例
・労働者の能力に応じて、一定程度業務内容や業務量を軽減すること。
なお、上記については、個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ること、また、限定列挙ではないことに十分留意し、広く相談に対応するなど、適切な対応を行うようにすることが必要です。
4.事業主が講ずべき措置
こうした職場のパワハラに対して事業主が具体的に講じるべき措置として、次の内容が示されました。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
これらに加え、相談者・行為者のプライバシー保護や相談者への不利益取扱いの禁止について、相談窓口のマニュアル整備や窓口担当者への研修の実施、就業規則等を通じて労働者に周知することも、上記①~③の措置と併せて講じることを求めています。
5.さいごに
上述の通り、大企業は本年6月から、中小企業は2022年4月から、本稿でみてきたようなパワハラ防止対策が事業主に義務付けられます。パワハラに該当するか否かは、指針にも記載がある通り、個々の事案の状況によっても判断が異なる可能性があるので、一概に何が良くて何が悪いかを決めるのは非常に困難です。そのため、事業主がパワハラ対策をしっかりと講じ、未然に防ぐことが、何よりも効果的であるといえます。
社内制度の見直しや、ハラスメントに関する研修等をご検討される場合には、弊所までお気軽にご相談ください。