従業員による情報漏えい事件とその対策について

2019年04月01日

昨年12月、「従業員が勤務先の営業秘密を同業他社へ転職する直前に複製していた」という『不正競争防止法違反事件』の判決が最高裁判所(以下、最高裁)で確定しました。本件では従業員の有罪となったのですが、どのような点から判断されたのか、『不正競争防止法』の解説と併せて、会社が行うべき対策についてご紹介します。

1.判断のポイント
『不正競争防止法』とは、営業秘密侵害や周知なマークの不正使用、原産地などの偽装表示、形態コピー商品の販売などを規制し、適正な競争を確保するための法律です。今回争われた『営業秘密』については、企業が持つ秘密情報が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、競合他社や個人に対して、民事上・刑事上の措置をとることができる旨が定められています。しかし、その秘密情報が『営業秘密』として保護されるためには、以下の3つの要件を全て満たすことが必要です。

【秘密管理性】秘密として管理されていること
営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があります。

【有用性】有用な営業上又は技術上の情報であること
当該情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営 効率の改善等に役立つものであること。現実に利用されていなくてもかまいません。

【非公知性】公然と知られていないこと
保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。

(※平成29年6月 経済産業省 「営業秘密の保護・活用について」より抜粋)

上記をふまえた上で、最高裁は今回の事件を次のように判断しました。
 被告人は、勤務先を退職し同業他社へ転職する直前に、勤務先の営業秘密である…(中略)…を私物のハードディスクに複製している
 当該複製は勤務先の業務遂行の目的によるものではなく、その他の正当な目的の存在をうかがわせる事情もない
 当該複製が被告人自身又は転職先その他の勤務先以外の第三者のために退職後に利用することを目的としたものであったことは合理的に推認できるから、被告人には…(中略)…「不正の利益を得る目的」があったといえる

2.会社が行うべき対策
先述のとおり、営業秘密の漏えい被害に遭った会社には不正競争防止法による救済があります。しかし、営業秘密であるか否かは裁判所が最終的な判断を行うものであり、営業秘密に該当しない場合、同法による保護を受けることはできません。営業秘密となる要件を確認し実施するのはもちろんのこと、営業秘密であるか否かに関わらず、会社の保有する情報をみだりに流出させないよう、就業規則等で社内ルールを整備する事も大切です。経済産業省の『秘密情報の保護ハンドブック』では以下の様な内容を盛り込むよう推奨しています。ご参考にしていただくと共に、自社の規定がどのように記載されているのか、ぜひ一度見直されてみてはいかがでしょうか。

① 適用範囲
 役員、従業員、派遣労働者、委託先従業員(自社内において勤務する場合)等、本規程を守らなければならない者を明確にします
② 秘密情報の定義
 本規程の対象となる情報の定義を明確化します
③ 秘密情報の分類
 分類の名称(例えば、「役員外秘」、「部外秘」、「社外秘」)及び各分類の対象となる秘密情報について説明します
④ 秘密情報の分類ごとの対策
 「秘密情報が記録された媒体に分類ごとの表示をする」、「アクセス権者の範囲の設定」、「秘密情報が記録された書類を保管する書棚を施錠管理して持出しを禁止する」、「私物のUSBメモリの持込みを制限し複製を禁止する」など、分類ごとに講ずる対策を記載します
⑤ 管理責任者
 秘密情報の管理を統括する者(例えば、担当役員)を規定します
⑥ 秘密情報及びアクセス権の指定に関する責任者

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