固定残業代と労働時間管理について
2018年12月01日
平成30年7月19日、未払賃金請求事件で最高裁判所は、時間外労働等の対価とされていた定額手当が割増賃金ではないとした高等裁判所の判断に違法があるとして、会社の敗訴部分を破棄しました。どのような点が高裁と最高裁の判断を分けたのでしょうか。判例を参考にしながら解説いたします
(※裁判所HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87883)。
1.時間外労働等に対する手当について
従業員を時間外・休日・深夜に労働させた場合、会社は一定の割増率を乗じた賃金を支払わなければなりません。
しかし、実際に支払われた額が上記計算による額以上であれば、上記の計算方法をそのまま用いなくてもよいことも、通達や判例から確認されています。このため、あらかじめ一定時間分の時間外労働等に対して定額の手当を定めて支払う、いわゆる固定残業代も、直ちには問題になりません。ただ固定残業代には賃金表示等をめぐったトラブルも多いため、厚生労働省では以下の点を明示するよう、指針等で会社に要請しています。
① 固定残業代を除いた基本給の額
② 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
③ 固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
2. 裁判の概要について
薬剤師が、勤務先の薬局を運営している企業に対して、時間外労働等に対する賃金等の支払いを求めた裁判です。本件では、業務手当(みなし時間外手当)について、月額の確定金額等を定めた確認書で「業務手当は、固定時間外労働賃金(時間外労働30時間分)として毎月支給します。一賃金計算期間における時間外労働がその時間に満たない場合であっても全額支給します。」等の記載がありましたが、タイムカードには出退勤時刻のみ打刻され、常態化していた休憩時間中の業務従事(30分間)は、タイムカードによる管理がされていませんでした。
3.東京高裁の判断
定額残業代を法定の手当とみなすことができる場合について、“定額残業代を上回る金額の時間外手当が法律上発生した場合にその事実を労働者が認識して直ちに支払を請求することができる仕組み(発生していない場合にはそのことを労働者が認識することができる仕組み)が備わっており、これらの仕組みが雇用主により誠実に実行されているほか、基本給と定額残業代の金額のバランスが適切であり、その他法定の時間外手当の不払や長時間労働による健康状態の悪化など労働者の福祉を損なう出来事の温床となる要因がない場合に限られる”とし、その上で本件では業務手当を上回る時間外手当が発生しているか否かを(従業員が)認識することができないので、本件業務手当は時間外手当の支払いではないと結論付けました。
4.最高裁の判断
ある手当が時間外労働等に対する対価であるか否かは“雇用契約に係る契約書等の記載内容のほか、具体的事案に応じ、使用者の労働者に対する当該手当や割増賃金に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の勤務状況などの事情を考慮して判断”するとし、この点については上述の確認書や賃金規程等に業務手当が時間外労働等に対する対価である旨の記載があること、業務手当の支払額が、実際の時間外労働の状況、それによる割増賃金に相当するものであり、大きくかい離するものではないことから、本件業務手当は時間外手当の支払いであるとしました。
なお、高裁判決の判断(定額残業代を上回る時間外手当発生した事実を労働者が認識できる仕組み)については“労働基準法37条や他の労働関係法令が…(中略)…原審が判示するような事情が認められることを必須のものとしているとは解されない”として否定しました。
5.さいごに
今回の最高裁判決により、固定残業代の支払いについては、使用者と労働者の間に取り決めが存在して客観的に確認できること、実際に勤務状況に照らした手当が支払われることという判断基準が示されました。
特に労働時間を管理して、時間外・休日・深夜労働に対応した割増賃金を支払うことは、それ自体が会社に課せられた義務です。特に改正安全衛生法は、労働時間の状況の把握が企業に義務付けられることが明文化され、来年4月1日に施行されます。
これを機会として、自社の労働時間の管理状況について、今一度見直してみると良いでしょう。