有期契約・無期契約労働者間の労働条件格差について

2018年08月01日

6月1日、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件格差を争った2つの事件に対する最高裁判決が、それぞれ言い渡されました。同一労働同一賃金が声高に叫ばれる昨今、労働条件の格差はそもそも許されるのか、許されるとするならどのような基準によるものなのか、最高裁の判断を参考に考えてみましょう。

1.有期契約労働者と無期契約労働者との格差はまったく許されないのか
期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違は労働契約法第20条で禁止されていますが、逆にいえば、【業務の内容】【業務に伴う責任の程度】【配置の変更の範囲】【その他の事情】等を考慮して合理的と認められる格差であれば、法律上は問題ありません。さらに今回の判決では“有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではない”という見解が示されました。つまり、有期契約労働者と無期契約労働者とで不合理な格差があったとしても、直ちに労働条件の相違が解消されるわけではないということです。

2.格差の(不)合理性は、誰がどのように主張するのか
格差が合理的なものか否かについては、相違が不合理であると主張する者とそれを否定する者とが“それぞれ主張・立証責任を負う”(それぞれが証拠を提出し主張を戦わせる)とされました。また、不合理な格差を是正するに当たっては、前述の通り、一斉に労働条件が同一になるのではないため、格差の不合理性について、個々の賃金項目(手当等)毎に検証されることになります。その際、“個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、賃金の総額を比較することのみによるのではなく、その趣旨を個別に考慮すべき”としています。つまり、格差が不合理であると主張したい有期契約労働者はどの賃金がどれだけ不合理であるかを個々に示さなければなりませんし、反対に、会社は各々の賃金項目について有期・無期を区別する合理的な理由を備えていなければ、有期契約労働者の主張に対して反論することが出来ません。

3.有期も無期も、まったく同じように仕事をする場合の格差は
最高裁は、有期契約労働者と無期契約労働者との格差が不合理か否かを判断する基準について、“労働者の職務内容および配置変更の範囲ならびにこれらに関連する事情に限定されるものではない”としました。これは、賃金については、労働者側の事情のみによって一義的に定まるものではなく、雇用や人事に関する経営判断の観点からも検討されるものであり、団体交渉等による労使自治のプロセスによっても影響を受けうると捉えられるためです。
具体的に今回の判決のうち、嘱託社員(定年後再雇用有期契約労働者)と無期契約労働者との格差が争われた事件では、“当該有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは、無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において、労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮される”という見解が示されました。理由として、「定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであり、定年退職後再雇用する場合は当該者を長期間雇用することは通常予定されていないこと」「定年退職後に再雇用される有期契約労働者は、定年退職するまでの間、無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり、一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されていること」が挙げられています。

4.有期労働者の労働条件を定める規程がなかったら
今回の2つの事件とも、会社は有期労働者等に適用される規程を正社員に適用される就業規則とは別に設けていました。そのため最高裁も“正社員就業規則または正社員給与規程の定めが契約社員である被上告人に適用されると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難である”と判断しています。有期労働者等に適用される規程が存在していなかった場合については判決の中で示されませんでしたが、格差の合理性判断において有期労働者側に有利に、会社側に不利になる可能性は高くなるでしょう。

5.さいごに
今回の判決で争点になった労働契約法第20条ですが、実は削除される予定です。正確には、完全に無くなることはなく、働き方改革関連法案のなかで、現在のパートタイム労働法に有期労働者を対象として加えることに併せて、本内容が移管されることになっています。他にも働き方関連法案では、短時間労働者・有期契約労働者・派遣労働者と正規雇用労働者との待遇差の内容・理由等に関する説明を義務化することも折り込まれています。労働条件格差への見方は今後さらに厳しくなっていくことが予想されますので、今のうちから働き方や処遇について、問題になりそうな点がないか確認してみると良いかもしれません。

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