災害と安全配慮義務

2017年04月03日

平成29年2月15日、文部科学省は気象庁と共同で作成した資料「活断層の地震に備える -陸域の浅い地震-」を公表しました。昨年の熊本地震を踏まえ地域毎の地震発生予測を確率で示し、リスクが高い地域では事前の備えを行う事を推奨しています。今回のニュースでは安全配慮義務の観点から、企業が講じるべき対策等についてお伝えいたします。

1. 安全配慮義務について
企業には、従業員の安全と心身の健康に配慮する義務があります。これを安全配慮義務といいます。この義務を怠り、従業員がケガや病気になるなどして損害が生じたときには、損害賠償を請求される可能性があります。
安全配慮義務違反は、通常、次の3条件がある場合に該当します。
① 予見の可能性(損害の発生が予見出来ること。企業が予見していなくとも、予見出来ると認定できる場合を含む)
② 結果回避義務を果たさなかった
③ 因果関係があること

2. 企業が負うべき安全配慮義務
安全配慮義務の一般的な内容としては、以下の2つが考えられます。
① 設備や施設などを管理する義務
機械や設備の故障等で従業員がケガをしないよう、性能を保持するため必要な整備や更新等を行うこと
② 働き方や組織を管理する義務
車両や設備の使用を十分な技量を持つ者に限定する事や、従業員に適切な安全教育を施すこと。また近年の裁判例で、長時間労働をさせていたことでうつ病を発症した従業員が自殺したケースでは、会社に「業務量の適切な調整を行う義務」の違反があった事が認められています(電通事件 最二小判平12・3・24)。

3. 企業の責任について
労働基準法では、従業員が業務上負傷したり、死亡した場合に企業側に補償責任を負わせる規定をしていますが、労災保険に加入していれば労災保険により補償がなされます。しかし、労災保険による補償の範囲を超える損害については、民法上の賠償請求が別になされることもあります。
損害賠償の対象となる項目には、治療費や慰謝料、後遺障害による逸失利益、弁護士費用や遅延損害金など、個々の事例によって様々な費用が考えられ、賠償額が多額になる可能性があります。過去の裁判例では、従業員を死亡させた場合、数千万円から1億数千万円の賠償義務が課されたものもあります。

4. 震災と安全配慮義務
東日本大震災の際は、犠牲者の遺族が企業に対し「安全配慮を怠った」として相次いで訴訟を起こしました。
従業員の遺族が勤務先を訴えたある事件では、裁判所は以下の事情から安全配慮義務違反を認定しませんでした。
① 災害対応プランを作成し、周知徹底を図っていたこと
② 年に1回、防災体制の確認・通信機器の操作訓練等を実施していたこと
③ 避難場所を合理的に選定していたこと
④ 地震発生後に避難指示や情報収集をしていたこと
⑤ (津波の規模が)客観的にも予測困難であったこと
一方、幼稚園バスが津波被害に遭い、被災園児の保護者が幼稚園を経営する法人と園長を訴えた事件では、園長が地震発生後の情報収集を怠り、被害に遭う危険性がある地域へバスを走行させていた事情から、安全配慮義務違反が認定されました。
地震等の天災は予見が難しい分野です。しかし、災害のレベルを幅広く想定して事前の防災対策を行い、しっかりと情報取集を行っておけば、いざというときに役に立ち、訴訟リスクを低下させることができるかもしれません。

5. 最後に
東日本大震災以降、多くの企業がBCP(事業継続計画)を作成し、緊急時においても倒産や事業の縮小を避けるため、事業の継続や早期復旧を図る準備をしています。一方で、従業員の安全配慮義務についても、それを疎かにすると高額の損害賠償金を請求されるリスクをはらんでいます。企業の経営リスクを考える上では、どちらについても真剣に取り組まなければなりません。
平時、従業員の安全に配慮した労働環境整備を心がけているとは思いますが、なかなか有事の際に目を向けて体制を整えるというのは難しいものです。
今回公表された資料を一つのきっかけとして、「従業員の安全確保について」「避難・防災の事前準備について」など、自社の防災体制を見直してみると良いでしょう。

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