カスタマーハラスメント対策~会社が知っておくべき責任とは~

2024年10月11日

カスタマーハラスメント対策における会社の責任とは

職場内のハラスメントには、優越的な立場にある者からの攻撃的な言動(パワハラ)や、性的発言によって就業環境を乱す(セクハラ)、妊娠・出産にあたって育児介護休業制度を利用することを妨げる言動(マタハラ)等が挙げられます。

こうしたハラスメントへの対策を講じなければ、会社は安全配慮義務違反を問われることになります。

では、取引先や顧客等社外の者からのハラスメント(カスハラ)に対してはどうでしょうか。

第三者行為による被害という点でこれまでのハラスメントと性質が異なります。

しかし、カスハラの影響を看過できないという認識は徐々に社会に広まりつつあります。

2020年6月1日、厚生労働省通知「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」において、国は初めてカスハラに対する会社の責務を明示しました。

そして、2023年9月、労災の認定基準となる心理的負荷評価表の改正に伴い、カスハラによる心理的負担が補償の対象となりました。

同表では、以下のような具体例を取り上げています。

・顧客等から、治療を要する程度の暴行等を受けた。

・顧客等から、暴行等を反復・継続するなどして執拗に受けた

・顧客等から、人格や人間性を否定するような言動を反復・継続するなどして執拗に受けた

・顧客等から、威圧的な言動などその態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える著しい迷惑行為を、反復・継続するなどして執拗に受けた

・心理的負荷としては「中」程度の迷惑行為を受けた場合であって、会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった。

上記の具体例には、「反復・継続するなどして執拗に受けた」や「会社に相談しても又は会社が迷惑行為を把握していても適切な対応がなく、改善がなされなかった」という要素が含まれています。

労災の基準において、直接的に会社の安全配慮義務を問われることはありませんが、民事上の責任において問われないとは言い切れません。

 

会社の安全配慮義務とは

もともと会社の安全配慮義務は、労働安全衛生法の中で定められていました。

例えば、同法第3条には、単に労働災害防止のための最低基準を守るだけではなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならないとされています。

同法の労働安全配慮義務違反は、違反内容に応じて刑事罰が設けられています。もちろん、従業員の生命、身体、健康に対する危険防止の注意義務を怠ったことにより、従業員が死傷した場合、会社は業務上過失致死罪に問われます。

さらに、労働契約法第5条では「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」ことを明示しており、その労働契約の不随義務に反すると債務不履行責任(民法第415条)が生じ、民事上の損害賠償の責任が問われます。

このように、会社の安全配慮義務違反は、労災だけでなく、刑事上、民事上の責任を問われる可能性があります。

安全配慮義務を果たせなかったことが要因で社会的な信頼を失うため、安全配慮義務は会社の社会的責任に大きく関与しています。

 

業種に応じたマニュアル作成を

2024年10月4日、東京都議会ではカスハラ防止条例が成立しました。

この条例では、「何人もカスハラを行ってはならない」ことを明示し、都内の会社の責務を明確にしました。

同条例において、会社に対する罰則等はありませんが、カスハラ防止策を講じていない場合には都の介入や制裁措置を受ける可能性があります。

さらに、会社の取り組みとしてカスハラ防止のためのマニュアル作成その他の措置を講ずることが努力義務とされました。

今後、会社がサービスとして提供できる範囲を定め、被害にあった従業員への相談対応等の方針を従業員に示すことが求められるでしょう。

従業員のなかには、カスハラと認識できないまま、自責の念を抱き、休職や退職に追い込まれることがあります。

会社は早期発見によってカスハラ対策をいち早く講じ、事態の深刻化、長期化を防ぐことができるよう、マニュアル作成に取り組みましょう。

当社ではカスハラ対策に関するご相談も承っております。

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