新型コロナウイルス感染症の労災補償について
2021年02月01日
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、令和3年1月7日、政府は緊急事態宣言を再発令しました。発令対象の地域住民に対して不要不急の外出自粛を求めるほか、企業へのテレワークや時差出勤のお願い、飲食店への営業自粛要請などが行われています。
企業においては、より一層の感染防止対策を実施するほか、感染者が出た場合には労災の対応も考慮しなければなりません。折しも労災給付事例も数を重ね、行政から事例紹介の資料も出てきました。本稿では同感染症における労災認定の基本的な考え方と、職種に着目した事例を交え、概説いたします。
1.労災補償における取り扱いに関する通達
昨年春、厚生労働省は、通達「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取り扱いについて」を発出しました。概要は次のとおりです。
【考え方】
細菌、ウイルスなどの病原体による一定の疾病の運用については、調査により感染経路が特定されなくとも、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められる場合には、これに該当するものとして、労災保険給付の対象とすること。
【国 内】
<医療従事者等>
業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として労災保険給付の対象となる。
<医療従事者等以外であって感染経路が特定された者>
感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災保険給付の対象となる。
<上記以外の者>
業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断する。
【国 外】
<海外出張者>
出張先国が多数の本感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを、個々の事案に即して判断する。
<海外派遣特別加入者>
国内労働者に準じて判断する。
(「令和2年4月28日 基補発0428第1号」より抜粋)
2.労災認定の具体的事例
前掲通達が示す通り、感染経路が明確な場合はもちろんですが、感染経路が特定されていなくても、業務による感染の蓋然性が高いと労働基準監督署が判断すれば、労災保険の給付が受けられます。
以下では「医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されない場合」について、労災が認められた具体的事例を一部ご紹介します。
【小売店・販売員 】
小売店で接客業務を担当しているJさんは、発症前14日間、日々数十人の接客を行い、商品説明等をしていたことから感染リスクが相対的に高い業務と認められた。一方私生活では、日用品の買い物や散歩のほかは外出しておらず、感染リスクは低かったため、接客などの業務によって感染した蓋然性が高く業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。
【タクシー・乗務員】
タクシー業務員のKさんは、発症前14日間、日々数十人の乗客を輸送する業務を行っていたことから、感染リスクが相対的に高い業務と認められた。一方私生活での外出は、日用品の買い物など、感染のリスクは低かったため、密閉された空間での飛沫感染が考えられるなど、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと判断されることから、支給決定された。
(厚生労働省HP「新型コロナウイルス感染症に係る労災認定事例」より要約掲載)
3.おわりに
事例の通り、接客など複数人との接点を持つ業務は、従事する労働者の不安も大きいことでしょう。今一度、厚生労働省が提供している「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」などを参照し、感染予防の体制・対策を見直すと良いでしょう。また、感染者が発生した場合に、非感染者への対応や労災申請などをスムーズに進めるため、どのように対応しておくかをまとめ、予防策と併せて労働者に伝えておくと不安を払しょくする一助にもなるでしょう。感染症における労災に関してご不安な点がありましたら、お気軽にご相談ください。