糖尿病対策を例とした従業員の健康管理について
2017年12月01日
本年9月、厚生労働省は『平成28年「国民健康・栄養調査」の結果』を公表しました。それによると下図の通り、糖尿病が強く疑われる者と糖尿病の可能性を否定できない者はそれぞれ約1,000万人に上ると推計されており、看過できない問題であると言えましょう。本ニュースでは、企業が取り組むべき従業員の健康管理について、糖尿病のケースを例に挙げ、概説いたします。
1.糖尿病の基礎知識
糖尿病は、血液中の糖が正常に分解されないため慢性的な高血糖となる病気で、ひとたび発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症や神経障害等の合併症、末期には失明や透析治療が必要となる事態を招きます。糖尿病の大半は体質的な要素に生活習慣が重なって発症するため、食生活管理や運動習慣等によってある程度のコントロールが可能になるといわれています。しかし、軽度の糖尿病はほとんど症状が出ないため、発症を自覚しないまま放置すれば、深刻な合併症に繋がる危険性があります。そのため、健康診断やセルフチェックを通じた早期発見が、なによりも重要になります。
2.企業の安全配慮義務と従業員の自己保健義務
企業は、使用する従業員を安全に働かせる義務を負います(安全配慮義務)。
その一方で、従業員にも事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない義務があるとされています(自己保健義務)。
例えば、企業は常時使用する従業員に対する1年1回の定期健康診断や、業務の特殊性や危険に応じた特殊健康診断を実施しなければなりませんが、従業員は正当な理由無くこれを拒むことはできません。企業はその健康診断の実施を通じて、糖尿病の予防にあたって最も重要な早期発見の機会を、従業員に提供することができます。
更に、より積極的に従業員の糖尿病を予防するには、どのようにしたら良いでしょうか?糖尿病の予防は元より、健康管理の基本は自己管理です。それゆえ、企業は、健康に関する情報提供や健康増進についての機会を提供するなどの支援を行うことにより、従業員の意識に働きかけ、自発的な健康増進を促すことが望ましいでしょう。
3.仕事と治療の両立支援
糖尿病治療には継続した血糖コントロールが必要不可欠であり、繁忙による治療の中断が重症化に繋がる危険性があります。厚生労働省『治療と職業生活等の支援に関する検討会報告書』では、企業の人事労務担当者に以下のような取組みの推進を求めています。
ㇾ店労働安全衛生法上の措置を徹底し、疾病の早期発見・早期治療や重症化防止に努める
ㇾ店店職場における疾病に対する理解を高め、治療と職業生活の両立に理解のある職場風土 を形成するために、労働者及び管理監督者の教育に努める
ㇾ店時間単位有休や短時間勤務導入など、柔軟な雇用管理の取組を推進
4.さいごに
最近、「健康経営」という言葉を耳にすることが多くなりました。「健康経営」とは、企業が行う従業員の健康管理・増進への取り組みが、労働力という経営資源の劣化を防止し、ひいては生産性の向上や、さらには企業イメージの向上にもつながっていくというものです。
本稿では、「糖尿病」を例に取り上げましたが、企業は従業員の疾病の未然予防や仕事と治療の両立支援など、従業員の健康管理を、企業の人材戦略として取り入れていくことが、ますます重要となっていくことでしょう。これまで、従業員の健康管理について法定の健康診断しかしてこなかったという企業様も、今後は従業員とともに積極的に健康な職場づくりを目指してみてはいかがでしょうか?